仮設と検証

Airbnbから学ぶ実践リーンキャンバス作成法

スタートアップの事業創造・ビジネスプランニング段階で用いられるリーンキャンバスは、ビジネスモデルキャンバスというフレームワークからスタートアップ用に進化したものです。

リーンキャンバスは「スタートアップ的に、無駄なく新しい事業を構築するためのフレームワーク」であると言えます。逆に言えば、必ずしもリーンキャンバスが適切かどうかは、自身の立場やビジネス環境を踏まえて判断する必要があります。

起業家、既存ビジネスとは独立した新規事業担当者、柔軟な文化を持つ企業のプロダクトオーナー(サービスや製品の方向性を決める人)には適切と言えるかもしれません。リーンキャンバスでは、アイデアを以下の9つの視点から俯瞰することで、現実的なビジネスとするための課題や要検証な仮説を明らかにしていきます。

このリーンキャンバスはシンプルかつ誰でも使いやすいフレームワークである反面、実際にリーンキャンバスを使ってみた方から、「本当にこれで良いのか?」、「絵に描いた餅にならないか?」という声が上がることもあります。

今回はアメリカのAirbnbというスタートアップ企業を例に実際にリーンキャンバスを作成してみましょう。

Bizlean式リーンキャンバスのダウンロードはこちら

今回用いるリーンキャンバスはパワーポイント形式に変換した、Bizlean式リーンキャンバスを使います。

Bizlean式リーンキャンバスは本家のリーンキャンバスにおいて最下部に当たる、「コスト構造」と「収益の流れ」を省略したリーンキャンバスです。コスト構造と収益の流れはビジネスを成立させるために必ず検討すべき要素ではありますが、これまでの経験上リーンキャンバスの考え方に慣れていない場合検討することが足かせになることが多いと感じたからです。

コスト構造や収益の流れはロジックにより答えがある程度決まる要素です。こうした視点は重要であるがゆえに現実的になりすぎてしまい、特に初期段階のスタートアップ企業に必要な、面白さや独創性という強みを早い段階から潰してしまうことが頻繁に見られてしまったという反省を生かしています。

「リーンキャンバスがイマイチ活かせない」「現実的に考えてしまい先に進まない」と言うときは、リーンキャンバスのエッセンシャル版であるBizlean式リーンキャンバスを使ってみてください。

Airbnbのリーンキャンバスを見てみましょう!

Railsware Product AcademyというYouTubeチャンネルの動画を参考に、Airbnbのリーンキャンバスを作成してみました。

このように最終形だけ提示されるととても簡単なことのように感じるかもしれませんし、逆にこのようにキレイにリーンキャンバスを埋めることは到底できそうにないと感じるかもしれません。

ただ、どの人もはじめから一気にすべての要素を書き込めるわけではありません。

今、あなたは世の中にない、もしくは多くの人には知られていないようなアイデアを形にしているのですから、すべてのピースが最初から埋まるということはまずありえないのです。

初めてリーンキャンバスを作成する人が気をつけるべきポイントとして、リーンキャンバスを作成する際には埋める順番は気にしないことです。それらは同時に浮かび上がる事もあれば、関連して連想して浮かび上がることもあります。はたまた誰かにインタビューすることで浮かび上がることもあります。ただ、目安としてRUNNING LEANでは以下のとおり数字が付けられています。

1️⃣ 顧客(Customer Segments)
2️⃣ 課題(Problem)
3️⃣ 解決策(Solution)
4️⃣ ユニークな価値提案(Unique Value Proposition)
5️⃣ 誰も打ち破れない強み(Unfair Advantage)
6️⃣ 鍵となる指標(Key Metrics)
7️⃣ チャネル(Channels)
8️⃣ コスト構造(Cost structure)
9️⃣ 収益の流れ(Revenue Streams)

この中で特に価値が高い要素は「課題」「解決策」「顧客」です。この3つも同時に浮かび上がる事もあれば、課題とその解決策からイメージが広がる場合もあり、そのどちらがより良いということはありません。

とにかく、最初は課題と解決策、そして顧客の発見に注力すること。これらの要素が最も重要なのは、途中からの変更が難しく、変更した場合には予想以上に多大なサンクコスト(埋没費用)を支払うことになるからです。

Airbnbが解決したかった課題とその顧客

ロードアイランド州の美術大学、RISDで出会った、ブライアン·チェスキー(Brian Chesky)とジョー・ゲビア(Joe Gebbia)の2人は、卒業後の2007年10月、サンフランシスコに引っ越してすぐ、 アメリカのインダストリアルデザイナー協会が主催するインダストリアルデザイン会議の際にエアベッド&ブレックファストの初期コンセプトを作り出した[8]。元のサイトは、飽和した市場でホテルを予約することができない参加者に、短期的な宿と朝食と他に類をみないビジネスネットワーキングの機会を提供した[9]。

https://ja.wikipedia.org/wiki/Airbnb

Airbnbの創業者であるブライアンとジョーはデザイン会議に参加する人のために、ホテルが満室で参加できないという課題を解決するために、短期的な宿と朝食を提供するネットワーキングサイトを提供しました。

つまり、この時点では今私達が知っているようなAirbnbのおしゃれなサイトやおしゃれな物件というのは存在していません。それに、当時もHotels.comなどオンラインホテル予約サービスはありましたし、カウチサーフィンのように自宅を旅行者に提供する有名な国際ホスピタリティコミュニティは存在していましたから、「競合がいなかった」というわけでもありませんでした。

ですから、みなさんも同じようなサービスがあるということで安易にアイデアをボツにしてはいけません。

Airbnbが提供した解決策とユニークな価値提案

Airbnbのビジネスモデルが成り立つには、借り手側の需要だけでなく、貸し手側の供給も作り出す必要があります。

顧客として浮かび上がってきた「安価で十分な宿泊施設を探している旅行者」に対して、「ホストになる宿泊施設の手段を持っている人々」もまたサービスの顧客であると言えます。借りたい人と貸したい人の両方がいてこのようなCtoCのマーケットサービスが成立するということを踏まえればどちらも顧客となりえます。

結果的にAirbnbが提供する解決策をまとめると、「旅行者が快適な地域の部屋を借りられて、所有者が空いたスペースを一日単位で貸し出せるオンラインサービス」ということになります。

この解決策はHotels.comにもカウチサーフィンにもどちらにもあてはまりません。

例えば、Hotels.comは「旅行者がインターネットを通して世界中の宿泊施設を予約できるサービス」であり、カウチサーフィンは「旅行者がその国のホストの自宅に宿泊できる代わりに、自らもホストになることで国際交流を深めるコミュニティ」であると言えます。

Airbnbはその中間であり、借り手は安価な宿泊施設として民間の住宅に泊まることができるが、必ずしも自宅を誰かに課す必要はなく、また、貸し手もホストになることで収入を得ることができるサービスであるためです。

Airbnbの強みとチャネル・そしてKPI

ここまでAirbnbの課題と顧客、解決策が明確になればあとは比較的スムーズに検討することができるでしょう。

誰も打ち破れない強みとしては、Airbnbの利点である地域の民間の家を借りることのできる「地域で本物の経験ができる旅行者」であり、それを成立させるためには悪質なユーザーや貸し手を排除するためのシステムである「信頼構築:ホストと滞在者の相互評価」機能が必要であり、万が一の際にも保証を受け取ることのできる「ホストのための保険」は貸し手に安心を与えます。

そしてAirbnbのユーザーを集めるために初期段階においては創業者自らがサイトの宣伝を行いました。

サイトは既に出来上がっていたが、3名は20,000ドルの Y-Combinatorの投資を利用し、ニューヨーク市に行き、ユーザに会いサイトの宣伝を行った[19]。そして、西海岸の投資家達向けの高利益のビジネスモデルを持って、サンフランシスコ市に戻ってきた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/Airbnb

こうして知人の紹介やベンチャーキャピタルの推薦、Google広告やFacebook広告などを活用して、貸し手と借り手の数を増やしていきました。また、城やクルーザーなどの面白い宿泊施設を掲載したこともユーザーの増加に寄与しました。

2009年3月、Airbedandbreakfast.comという名前をAirbnb.comに短縮し、サイトのコンテンツは、エアベッド、共用スペースから、1戸建て住宅やアパート、個室、城、クルーザー、荘園、ツリーハウス、テント、イグルー、個人所有の島やその他の物件にまで成長した[20]。

https://ja.wikipedia.org/wiki/Airbnb

最後にAirbnbが成長していると評価するための指標について検討します。

AirbnbにとってPV数やユーザー数は必ずしも適切な指標とは言えません。なぜなら、ホストが増えてかつユーザーも増え、結果的に成約しなければAirbnbの受け取る手数料収入は入らないからです。更に言えば借りたい人はたくさんいても物件が少なければ意味がありません。

よって、あくまで一例ではありますが、「ホスト数」をまず増やすことは大切でしょう。次に「ホストあたりのビュー対予約数」という指標はホストが増えると同時に予約するユーザーの数も増えているかを計測するために重要でしょう。

そして、継続的にAirbnbに満足してくれるかどうかを測るためのNPS(顧客推奨度)もまた必要かもしれません。そして、宿泊施設を探す時にすぐにAirbnbを開いてくれているかを判断するために、粘着性(スティッキネス)を測る指標としてDAU/MAUを用いることも適切でしょう。

まとめ

今回はAirbnbを例にとってリーンキャンバスを作成してみました。成功事例を元にリーンキャンバスを作成するのは事後的な検証にはなりますが、既存のサービスがいかにユーザーの課題を解決する方法として適切に設計されているかどうかを理解するのに役立ちます。

また、CtoCのマーケットサービス成功事例として類似の構造を持つWebサービスを検討する際はこうした先行事例をリーンキャンバスで分析することで、自社の検討に足りていない要素や注意しておくべき要素に気がつくきっかけとなるでしょう。

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